むし歯は歯医者がつくっている

歯医者は患者のいうことに耳を傾け、親切であろうか。残念ながらノーである。ただし、そのようなポーズはとらざるをえない。歯医者が増えすぎて、一軒あたりの患者が減り、経営が悪化したのでサービスをふりまくようになった。だが、なにかのはずみで歯医者が足りないご時世が来れば、またふんぞりかえって、患者を足蹴にするにちがいない。歯医者のモラルや専門職としての自覚が変わったとは思えないからだ。変わってほしいと思いつけれど、変わったという手ごたえがない。

むし歯の数はどんどん増えている。 DMFのうちの D (未処置歯)は減ったけれど、 F(処置歯)がその分をはるかに上まわって激増した。 DをFにすることで、歯医者はメシが食えたけれど、患者の口のなかは詰め物やかぶせ物のオンパレードの状態に変貌した。

歯科医療費の場合、保険によらない自費分が最近は15パーセント、 〝歯の110番″ で差額徴収が追及されたころは40パーセントにのぼっていたといわれる。その分を加えると、90兆円を超えるだろう。 これは年間国家予算より多いし、バブル崩壊で銀行が抱える不良資産の公表分をも超えるのではないか。とにかく、半端な金額ではない。しかも、その少なからぬ部分が、むし歯を拡大再生産するためのむだ遣いだったと思う。

歯医者が詰めたり、かぶせたり、抜いて入れ歯にしたりした歯は、やがてがたがたになり、二度目、三度目の治療を必要とする。患者にとって、この分の治療代は、〝盗人に追い銭″の思いがしないでもない。追い銭をたっぷり、あるいは小きざみにとられたうえで、 F(処置歯)がM(喪失歯)となってようやく一巻の終りを迎える。むし歯は歯医者がつくっているというのが偽らざる実感である。

むし歯は子どもだけがかかる病気ではない。年をとるにつれ、歯ぐきがやせてきて歯の下部(歯頭部)が露出する。そこはセメント質といって上部(歯冠部)のエナメル質よりもむし歯にかかりやすい。 人口の高齢化につれて、こうした新しいタイプのむし歯が増えてきた。第二の歯の病気である歯周病 がかんせつ (歯槽膿漏)は特に中高年の人びとの歯を冒す。三番目に、最近クローズアップされてきたのが顎関節しよう症だ。歯医者のいいかげんな治療がもとで起きた歯の岐みあわせ異常からくることの多い病気である。 いずれにしろ、歯の病気はひと筋縄ではいかなくなっている。日本に歯の地獄を生みだした最大の責任者は歯科医、次の責任者は厚生省である。当事者から反論が あるかもしれないが、この一線は譲れない。患者は被害者だ。